Parsleyのリハビリ部屋

ちょっと人生に疲れたParsleyが、リハビリのつもりでつらつら言葉を重ねていくブログです。

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』的な風景をさまよい求めて ~葉山篇~

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 アニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』を見ると、なんだか自然に触れたくなるのは、「愛してるを知りたい」というヴァイオレットが、いつも自然とともにあるから、という話は以前にも触れた。

 

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 TRUEが歌い上げるOP曲『Sincerely』は、「しらないことばをおぼえるたび」というフレーズからはじまる。この「たび」は「度」だけでなく「旅」にも掛けているというのが私の解釈だ。アニメでは全編でヴァイオレットが自動手記人形として出会う人を通して、学び、心を育んでいくというシリーズ構成になっているが、彼女のことを「感情がない人形のような少女」と評することが多いというのには違和感を覚えていた。

 ギルベルト少佐とヴァイオレットとの関係で重要なエピソードの一つに、露天で買ったエメラルドグリーンのブレスレットがある。彼女はここで「少佐の瞳は出会った時からうつくしいです」と言う。これは、圧倒的な戦闘力を持つ少女だが、決して人形ではなかったということを示すシーンだといえるだろう。

 4話の、アイリスのパーティーの招待状をポストに届けるシーンも印象深い。「たいしたもてなしはできない」というのに対して、彼女は「根拠は判然としないのですが」と断った上で、「この景色がたいしたもてなしという言葉にふさわしい気がします」と静かな夜の棚田に目を向けるのだ。ここも彼女が言葉を知らないだけで実は感受性の高い少女なのではないか、と表しているように思える。

 だからこそ、6話ではリオンと一緒に満点の星空とハリー彗星を観察し、7話では湖を三歩あるいてみせ、10話では依頼主がくる前に茫洋と窓の外の風景を眺めているシーンが生かされていく。極めつけが、13話の海が見える草原を歩く彼女のカットだ。

 

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(c)暁佳奈・京都アニメーションヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会

 

 最終話の掉尾にこのシーンがあるのは、ヴァイオレットの物語に続きがあることを示唆するものであるのはいうまでもないが、それを抜きにしても、風光明媚な景色を、お気に入りの日傘を差して仕事先に向かう姿は、印象派の画家のそれのようにハッとさせられる美がある。叶うことならば、このような景色をこの目で確かめてみたい、と思っても無理からぬことだろう。

 ここで思い出したのは、三浦半島・葉山の海岸沿いの景色だ。あのあたりの海水浴場のそばには公園があったり、ちょっとした草むらが広がっていたりする。古くからの別荘地であるというのも、自動手記人形の赴任先に近いような気がする。もしかすると、ヴァイオレットと同じような心象を味わえるかもしれない。そう思って逗子まで横須賀線に揺られて、自転車をレンタルし海岸を巡ってみた。

 

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 まず向かったのは、神奈川県立葉山公園。目の前に大浜海岸が広がるロケーションで、ベンチも多く、ただ海が見たいというのならば絶好だ。

 

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 ただ、ヴァイオレット的な風景という観点でいえば、芝生の先に柵があるのが惜しい。まぁ、砂浜との段差があるので安全対策が必要なのは理解できるのだけど……。それでも、海風を感じつつどこかに彼女の息吹を探して小一時間ぼんやりとするには心地の良い場所だった。

 

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 大浜海岸と下山川を隔てて、葉山御用邸と目の鼻の先に広がる一色海岸。ここに小磯の鼻と呼ばれる小さな岬がある。パワースポットと紹介されることもあり、春や海水浴シーズンだと人で溢れかえっているのだけれど、さすがに12月の平日ともなると自分以外に誰もいなくて、ぽつんと立つ駐在小屋が寂寥感あるが、かえって好都合。

 

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 日差しをたっぷり浴びるせいか、芝に緑が残り、打ち付ける波の音色が耳を叩く。地図で見れば分かる通り、ここは行き止まりだけど、なんとなくヴァイオレットの足跡があるような気がする。

 

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 南側には、長者ヶ崎を臨み、海面に岩が転々と顔を出している。数歩歩くだけで、フレームが切り替わるように風景が変わるあたりがおもしろい。

 

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 そして、下山川の河口近くに、芝生が開けた場所がある。ここだと草と海までがグラデーションのように視界が開けていて、あの日傘を差したヴァイオレットが足を止めそうな景色になっていた。

 作中では、ヴァイオレットが寄り道せずまっすぐに向かっているように描写されている。だが、最終話のあのシーンは本当に依頼主のもとへと直行していたのだろうか? 彼女はギルベルトの兄ディートフリートに海で拾われた孤児だが、あえて海が見えるあの草原が広がる小路を歩いていたのではないか?

 そんな想像をもてあそびながら、潮と土の匂いに身を任せる。私にとってはこれ以上の贅沢な時間はなかった。

 

 ほかにも、ヴァイオレット的な海辺の風景はどこかにあるのだろう。北海道をくまなく廻れば、もっと相応しい場所に出会うかもしれない。そこを探し求めてさまようこともやってみたいが、この葉山の地と海には、季節ごとに色の変化を確認しに来ることは、もはや自分にとっては決定事項になったことは間違いない。日差しの強い日あえて行って、傘を差してみるという遊びもしてみたいしね!

 

 

 

Sincerely (アニメ盤)

Sincerely (アニメ盤)

  • アーティスト:TRUE
  • 出版社/メーカー: ランティス
  • 発売日: 2018/01/31
  • メディア: CD