Parsleyのリハビリ部屋

ちょっと人生に疲れたParsleyが、リハビリのつもりでつらつら言葉を重ねていくブログです。

『真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました』がいよいよ核心をチラ見せしてきた件について語りたい

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 ざっぽん先生の『真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました』(以下『真の仲間』)について、以前に単なる「追放系」に留まらない正統派ファンタジーだと強調したことがあったのだけど、最新巻の7巻で、いよいよこの世界のキーとなる「デミス神」に絡めて新たな展開が予告されていたので、簡単に触れておきたい。

 

parsley-reha.hateblo.jp

 

 7巻は、前巻と引き続き海賊王ゲイゼリクのヴェロニア王国のお家騒動にゾルタンが巻き込まれるというストーリー。「なろう」版とはキミランエルフのヤランドララが既にレッドたちと一緒にゾルタンに滞在している点と、前市長ミストーム師=ミスフィアの妹でヴェロニアの実質的な権力を掌握しているレオノールが騎士時代のレッド=ギデオンと出会っているという違いがあるが、基本的な物語の流れは一緒になっている。

 

 『真の仲間』では、デミス神に与えられる「加護」によって人生が左右されてしまう中で、登場人物たちがどう向き合っていくか、というところ最大の読みどころだ。レッドの妹のルーティは、4巻で「シン」という名の「もうひとつの加護」を得ることによって、「勇者」の衝動から開放されて、自分の意思や感覚を取り戻した。ところが、本作の悪役として登場したレオノールは、「闘士」というありふれた「加護」で、なおかつレベルが「1」。「この世界は戦いに満ちている」という中で、ただの一度も自身の手で殺したことがない。

 

「神はそうあれとおっしゃったのでしょうね。でも私の主は私なのです。私が頼るのは私であって神などではない……。私の人生に加護など必要ありません」

 

 「加護」の存在を全否定する彼女に、レッドやルーティは畏怖を覚える。「勇者」にさんざん振り回された兄妹だけに、自分の意思を最期まで貫いたレオノールの存在が与えたものは小さくない。ゾルタンの戦争は暴風のように過ぎ去り、いつもの平和でのほほんとした日常に戻ったが、レッドたちには容易には抜けない棘が残された。

 

 そして、エピローグで語られる新たな「勇者」の存在だ。神の信徒が戦いを望むというのは、中世ヨーロッパから十字軍の歴史が証明しているが、この世界では「加護」の存在によって、「戦う」「殺す」大義名分が全ての生物に与えられている。そして、もうひとりの「勇者」ヴァンは、デミス神の狂信者として描かれている。物語はふたりの「勇者」が相見える不穏な未来を示して次巻へと託された。

 

 もっとも、あとがきによると次巻は「森でのキャンプや田舎への旅行などスローライフを満喫します」とあるから、本巻では控えめだったレッドとリットのイチャイチャ成分(その分、リットがかっこよかった!)が堪能できそうだし、ギデオンとルーティのパーティ序盤を描くスピンオフ小説の刊行も決まっているとのことなので、肩に力を入れて読む必要は全くといってなさそう。しかし、デミス神と「加護」の依らないアスラデーモン、そして戦いを求めるもう一人の「勇者」と、王道ファンタジーの種が撒かれている。お約束的な展開を踏まえつつ、その円環を広げようとする『真の仲間』の紡ぎ方に、これからも期待したい。