Parsleyのリハビリ部屋

ちょっと人生に疲れたParsleyが、リハビリのつもりでつらつら言葉を重ねていくブログです。

小説版とアニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』を繋げるもの

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(C)暁佳奈/京都アニメーション

 

 本来ならば、4月24日に『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』が公開されているはずだったが、新型コロナの緊急事態宣言下で延期になってしまった。が、少なくとも私にとっての「愛」とは「いつまでも待てる」もののことだ。たとえ、その期間が「永遠」だったとしても。

 そんなわけで、3月に刊行された原作者・暁佳奈先生の『ヴァイオレット・エヴァーガーデン エバー・アフター』を読んで、思ったことをつらつらとメモしておきたい。

 

 小説『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』と、アニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は、どちらも「あり得るべくした物語」であって、「愛」のカタチは微妙に違い、それぞれが別のお話であると捉えるのが自然に思えるのだけれど、いくつか通底しているものがある。例えば、ヴァイオレットという元少女兵の自動手記人形を見つめる他の登場人物の「まなざし」であり、ヴァイオレットが「言葉」の「意味」を咀嚼していく姿勢だったり。そういったものが、ヴァイレットというキャラクターの小宇宙を形成していると言っていいだろう。

 小説の世界では、ヴァイオレットとギルベルト・ブーゲンベリアは既に恋仲だ。最終巻では、「愛」の意味を知った彼女が「恋」というあやふやな気持ちに振り回されている描写がいくつか見られ、ぎゅっと心を締め付けられるのだけど、特異なのは「愛」が先で「恋」が後だということだろう。彼女にとって、ギルベルトは従うべき上官であり、全幅の「信」を置いている「世界のすべて」だった。それが、生死不明で離されることになって、焦がれる気持ちを抱えて生きていた。その間に会う依頼主やクラウディア・ホッジンズの目から見たヴァイオレットという話に、我々読者は惹き込まれていった故に、ギルベルトの存在や選択をどう捉えるのか、ということが難題として突きつけられるし、アニメ劇場版で彼がどう描かれるのか、端的にドキドキしてしまう。

 

 だが。そんなことが一挙に吹き飛ぶほどのシーンが『エバー・アフター』にはあった。そこが描写されて、小説とアニメのヴァイオレットが、私の中では「繋がった」ように思えた。

 最終章『夢追い人と自動手記人形』で、ヴァイオレットは歌手を目指すレティシアアスターとしばらく軒を共にする。そこで、自身の「夢」をこのように語るのだ。

 

「………ロズウェルの紅葉は美しく、ドロッセルの町並みは花に溢れています」

「うん?」

「天文の都、ユースティティアの夜はまるで宝石を散りばめたような空で、ダーツ地方のジャガランダ河の自然の恵みは目を見張るものがあります」

「……う、うん?」

「私は、それを、私の好きな方にもいつかお見せしたい。きっと、あの方は、目を細めてご覧になると思うのです。休みの日は、馬に乗る方で、自然が好きなのです」

 嗚呼、とようやくそこでレティシアもヴァイオレットの発言を理解した。

「もし、夢を見ることが許されるならば、私はあの方に、私が見た美しい景色を、共有……したいのです」

(P317)

 

 以前、私は『ギルベルト少佐を「わたしの世界のすべて」と言うヴァイオレットだが、彼女自身はいつでも自然と共にある』と書いた。

 

parsley-reha.hateblo.jp

 

 アニメのヴァイオレットでは、ライデンの街を一望できる展望台に自動手記人形学校の同期生のルクリアに連れられて登る。そして、「いつかヴァイオレットにも、ライデンの美しい街並みを見せたい」というギルベルトの言葉を思い出す。

 嗚呼、やはり小説でもアニメでも、ヴァイオレットはヴァイオレットだ。

 そして、ヴァイオレットとギルベルトが肩を並べるのは、広い広い、水と草と土の香りがいっぱいの、あるいは海風が運ぶ潮の音が聴こえる中であってほしい。だから自然は、世界は、うつくしい。「ふたりを包み込んでいる」自然が綺麗だからこそ、「愛」が育まれていき、人生が続く。人と人の営みをつなぐのが太陽であり、月であり、海であり、山であり、川であり、森なのだ。

 このシーンが小説で明確にヴァイオレットの言葉として語られたことで、小説とアニメの距離は、少なくとも私の中では縮まったし、繋がった。それだけでも、私にとっては大切な、とても大切な一冊となった。想いとは、こうやって溢れていくのだという表現に関して、書き手としての暁先生はやはり非凡だと思わざるを得ないし、アニメ「だけ」では伝わらないヴァイオレットの世界というのが、ここにはあると断言できる。そういう意味でも、「別の物語」だけど、「繋がった世界」というニュアンスを、多くのファンに気づいてもらいたいな、と感じたのだった。

 

www.kyotoanimation.co.jp

 

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