乙女男子が独断と偏見で選ぶ「悪役令嬢」モノ5選(+1)
メンタル壊してほぼひきこもりの期間が長かった2019年の夏が過ぎ、秋になって少し体調が持ち直してから、文字を読むクセを取り戻そうかと思って、これまでは数える程の作品しか読んでいなかった「なろう系」、それも異世界恋愛ファンタジーを読み漁っていた。 ちゃんとは数えていないのだけれど、ざっと300作品くらいは目を通したように思う。『なろう』や『カクヨム』など全体では500近いはず。「一体お前は何をやっているんだ」というツッコミは置いておいて、その過程で人気が出る作品の傾向というかトレンドが掴めたり、中には「おおっ!?」と思わせる作品に出会ったり、それなりにその「読書」を楽しめたし、ペースは落ちたものの今でも続けている。
こんなことを記すのは、Yahoo!ニュースに『FRIDAY DIGITAL』の悪役令嬢モノの記事がトピックスに上がっていたから。
『アナと雪の女王』と共通点があるかどうかはさておき、乙女ゲームでは主人公の恋敵になる「悪役令嬢に転生しました」というだけの設定では既に陳腐化していて、作者があの手この手で新しいファクターをひねり出している、というのが現在地ということになるだろう。
前置きはこれくらいにして、私的な「悪役令嬢」作品を5つほど選んで紹介してみようと思い立ったのだが、これがなかなか絞り切れない。ということで、5作品プラス、ひねり過ぎているけれど一読して損はないと思われる作品を一つ追加でここで挙げてみたいと思う。もちろん独断と偏見なので、異論は認めますよ?
1、『勿論、慰謝料請求いたします!』
お金儲けが大好きな伯爵令嬢ユリアス。婚約も「商売がしやすくなりそうだから」という理由なのだが、その婚約者がパナッシュという乙女ゲーム脳な令嬢に入れ込んでいて……。という話なのだが、儲け目的でユリアスが書かせている恋愛小説の作者がバンシー(死を告げる妖精)の血を引いていて、その小説が預言書になっており、愛読者のパナッシュがその通りの行動に出ている、という入れ子構成になっているのが面白い。
最初は恋愛要素皆無で、かつユリアスがなかなかに女前(?)で女子が好きになりそうなタイプ。まぁ、話が進むうちに乙女要素が増していってニヤニヤするようになると思うので、安心して読めるのではないだろうか。
https://ncode.syosetu.com/n2665dw/
2、『婚約破棄から始まる悪役令嬢の監獄スローライフ』
ファーガソン公爵家のレイチェルは、突然エリオット王子や取り巻きに難詰され、婚約破棄を言い渡される……というのはテンプレなのだが、罪を認めずに牢に入れられてからの展開がぶっ飛んでいるのが本作。事前に食料やら家具やらを搬入するわ、抗議に来た王子たちをクロスボウで追い払うわ、暇を持て余して小説を書き始めるわ、とにかくやりたい放題ぶりがすさまじい。
登場する男性陣がみんなアホで、女性陣はみな頭のネジが一本どころじゃなくて外れているというあたりは、いっそ清々しいし、オーバーキルな「ざまぁ」ぶりは他の作品の追従を許さないのでは、と思う。そもそもこんな具合で国としてどうして成り立っているのか不思議な感じではあるが、本作で描かれていないところで苦労して働いている人がいるのだろう、たぶん。
https://ncode.syosetu.com/n5577es/
3、『屋根裏部屋の公爵夫人』
夜会で突然抱きすくめられて騒いでしまったことで、悪評が立つようになったホロウェイ伯爵令嬢オパール。彼女は田舎の領地でひっそり暮らすつもりだったのだが、父に命じられて公爵ヒューバートとの結婚を命じられる。だが、ヒューバートの邸宅には籠の鳥を大事にするように愛でる少女がいて、使用人たちは全員少女の味方。オパールにあてがわれたのは公爵夫人には似つかわしくない屋根裏部屋だった--。
このように記すと悲運な令嬢ものかと思うかもしれないが、その後にヒューバートの領地に赴き不正を暴いて解決し、公爵家の領地や邸宅を自分のものにする証文を書かせるといったふうに、オパールはなかなかの策士ぶりを見せていく。さらに領地の農具を揃えたり、鉱山の権利を買ったり、経営手腕を発揮するあたり、かなりのスーパーウーマン。そんな彼女が想いを寄せているのは……と、領地経営とロマンスが同時進行で展開しているあたりが読みどころ。詳しくは記さないが、「屋根裏部屋」が伏線としてちゃんと回収されるあたりも良い。権謀術数が大好きという人におすすめ。
https://ncode.syosetu.com/n9587ek/
4、『虫かぶり姫』
なろう系で「本」をテーマにした作品といえば『本好きの下剋上』が有名だが、個人的に好きなのはこの『虫かぶり姫』。主人公のエリアーナはクリストファー王子の婚約者だが、本好きが高じて書架にこもり、「虫かぶり姫」というやっかみに近いあだ名で呼ばれている。クリストファーと交流のない彼女の耳に、権力闘争を収めた彼が意中の姫を迎えるという噂が入って胸を痛めるが……というストーリー。
一見すると「悪役」というよりも影が薄いエリアーナだが、乱読癖による知識が国を救っていく展開が丁寧で、読み込むほどに続きが気になっていく。大河的なドラマ成分は少ないが、全体的に綱渡り的な緊張感がある物語で、エリアーナとクリストファーがちゃんと結ばれるのか心配。簡単にはハッピーエンドにしないぞ、という作者の気概に期待したい。
https://ncode.syosetu.com/n4942cw/
5、『婚約破棄されたが、そもそも婚約した覚えはない』
貧乏男爵令嬢のノーラは、ある日見知らぬ灰茶色の髪の美青年から婚約破棄を言い渡される。その直後に、灰茶色の髪の同じ相貌の青年がやってきて婚約を申し込まれる……。要するに、侯爵令息が双子で、手違いで入れ替わって婚約の手続きがされていたけれど、ノーラはそれを知らなかったという笑うに笑えない話なのだが、婚約を申し込んだエリアスがなぜノーラに見初めたのか、婚約破棄したアラムはなぜ入れ違いに気が付かなかったのか、といったことが少しずつ明かされていく。
ノーラが恋愛不感症体質で、酒場で歌姫として活躍しており、そこに双子が揃って来店するようになるというあたり、他の作品とは一線を画しているように思える。ノーラの気持ちを解きほぐすためにエリアスが奮闘するところや、アラムの心境がだんだん複雑になっていくあたりの描写が「いとおかし」的な意味でおもしろい。果たしてエリアスの頑張りが報われるのかどうか気になるところだ。
https://ncode.syosetu.com/n3896fn/
番外、『悪役令嬢最後の取り巻きは、彼女の為に忠義を貫く!』
悪役令嬢本人ではなく、取り巻きを主人公にした作品の中ではピカイチなのでは、と個人的に感じるのが本作。レッドマイネ家の美少女ソフィアに従う子爵令嬢クロエは、「子豚」と呼ばれる容貌だが、忠誠心は「100を越しているのでは?」というほどソフィアの幸せのために奮闘する。ソフィアには病弱な兄オースティンがいて、クロエとは憎まれ口を叩きつつ共闘する間柄なのだが、徐々に二人の関係性に変化が出てきて……というストーリー。ソフィアの境遇の急展開には「!?」となるが、主人公の秘めた恋のスパイスとして読めば悪くない。
本作の凄いところは「子豚」と揶揄されるクロエが読み進めていくと可愛らしく感じるところだろう。終盤近くのあるシーンなど聖母かと思った。というか自分も身体が弱いので正直泣いた。あの「やさしさ」に胸を打たれないという人とは友だちにはなりたくない。あの一話を読むだけのために本作を一読する価値があると思う。