Parsleyのリハビリ部屋

ちょっと人生に疲れたParsleyが、リハビリのつもりでつらつら言葉を重ねていくブログです。

マンガ『声がだせない少女は「彼女が優しすぎる」と思っている』の世界は泣きたくなるほど優しすぎる

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 去年の今ぐらいの時期に、ストレスで心身のバランスを崩して失声症になった。喉元にまで言葉が出かかって、そこから息が詰まるような感覚になって、言葉が出てこない。とても慌てたし、「もう声が出ないのかもしれない」と脳裏をよぎりもした。今から思うと、ネガティブなことばかり考えていた。

 

 矢沢いちさんの『声がだせない少女は「彼女が優しすぎる」と思っている』は、失声症の真白音が転校して、ぶっきらぼうな同級生の心崎菊乃に出会う物語。真白さんは筆談のためにスケッブックでコミュニケーションを取っている。転校したばかりの頃はクラスメートに囲まれていたのだけど、「話せない」ということでだんだん距離を取り始めていることを感じ取って、真白さんは自分のせいだと責めていた時、心崎さんが一緒にお昼を食べる。

 「まるで心が読めるみたい」と真白さんが思っている心崎さんだが、実は本当に心の声が聞こえる。そのせいで人となるべく関わらないようになっていたが、真白さんのネガティブな「声」を見かねて一緒にいるようになる。そこで、真白さんが素直でまっすぐな心根の持ち主だとわかり、「調子が狂う」と思いつつも居心地の良さを感じだす。

 

 真白さんは、声が出ないのに表情豊かで、他人の感情に敏感で、ちょっと抜けたところがあって、なんだかほっとけない女の子。一方で「心が読める」せいで斜に構えているように見える心崎さんも、真白さんがいうように「優しすぎる」から他人の感情に振り回されてしまうということがわかる。

 人の感情はぐちゃぐちゃで、ドロドロしていて、時として気持ちが悪く感じることも多い。それが「読めて」しまうというのは、考え方によっては地獄に近い。そんな中で生きてきた心崎さんにとって、まっすぐすぎるほどにまっすぐな真白さんの心は、ゆっくりと、角を取っていくように、景色を変えてくれる存在なのだろう。この作品を「尊い」と表現するならば、ふたりがそれぞれの胸に寄り添うように接しているのを描いているからだろう。

 

 ほかにも、ふたりの関係を羨ましく思っている中村さんや、コンビニバイトの習志野さん、担任の真田先生のエピソードも微笑ましくて、心がじんわりと温まる。自分にとって、この作品の世界は優しすぎて、ちょっと泣きそうになってしまう。そして、その「優しさ」こそ、多くの人が求めてやまないものの正体なのではないかとも思うのだ。