Parsleyのリハビリ部屋

ちょっと人生に疲れたParsleyが、リハビリのつもりでつらつら言葉を重ねていくブログです。

なろう発『ロメリア戦記』は本気で「中世」ファンタジー&「戦場」を描いていると思う

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 すでに書籍化が決定している有山リョウ氏の『ロメリア戦記』は、「はりす」名義で書かれていた頃(参照)から「これは」と感じていた。

 魔王を倒した勇者パーティーから、王子のアンリからロメリアが婚約破棄を宣告されるところからはじめる本作。ここからロメリアが王子たちへどう「ざまぁ」するのか、というのが「なろう小説」的には見どころになってくるのだが、そのスケールが一国の興亡レベルになっていく。

 魔王を倒したものの、大陸に魔王軍が各地に残り、災禍をもたらしている。戦いは終わっていないと感じているロメリアが、父伯爵に願って辺境のカシュー地方に赴き、軍隊を組織する。最初は20名の部隊が、魔物の退治で成功体験を積み上げ、自信を持ち始めた矢先に、魔王軍の斥候と遭遇して苦戦を強いられる……といった展開は非常に泥臭く、緊迫感に満ちているだけでなく、小さいながらも戦術にも踏み込まれていて描かれているあたり、作者の戦記物への嗜好も感じることができる。そして、後の「ロメ隊」「ロメリア騎士団」へと成長していく上で、死線をともにしたということが、ロメリアの糧になっていくというストーリーが非常に自然だ。

 『ロメリア戦記』の世界観が俯瞰できるのが、第二十二話だろう。地域の住民の怪我や病気を癒し手で治療しているカレサ修道院のノーデ司祭に会うために訪れたロメリアは、腑分けを禁じる教会の教義への疑問を語り、次のように続ける。

 

「司祭様に今更言う必要もありませんが、五百年前、この地を支配していたライツベルグ帝国は大陸全土にその版図を広げ、あまりの偉業に黄金帝国と称えられていました。帝国時代には多くの発見や発明がなされ、人類が最も豊かな時であったとすら言われています。しかし帝国が滅んで五百年。新たな発見や発明はなされず、技術的には後退しているところすらあります」

 

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 教会内で寄進次第で物事が左右されるあたりも含めて、ローマ帝国が衰亡し、キリスト教が勃興した中世ヨーロッパを強く意識した設定で、歴史好きとしてはワクワクする。そして、ロメリア個人に強い影響を与えたノーデの弟子への思慕は、年頃の女の子らしさが感じられる唯一のエピソードともいえる。そういった伏線をいくつも張りつつ話の規模を大きくしていく過程が丁寧なのが、この作品が「読ませる」下地になっているように思える。

 改訂版では、魔王軍サイドのストーリーもあり、さらに能天気なアンリ王子に苦悩する聖女エリザベートの心情の複雑さといった機微も楽しめる。作者が「この場面が書きたかった」というシーンにはまだ連載がたどり着いていないが、どのようにアップデートされることになるのか、いち読者として楽しみだ。