新日本プロレス東京ドーム大会でのKENTA「蹴撃」に考えさせられたこと
年明けの新日本プロレス東京ドーム大会二連戦と翌日の大田区体育館大会は、『NJPW WORLD』の生配信で観戦した。個人的なベストバウトは断然、IWGPジュニアの高橋ヒロムvsウィル・オスプレイ戦だったのだけれど、ひとまずここでは1.5のエンディング、内藤哲也がオカダ・カズチカを下してIWGPヘビー&IWGPインターコンチネンタル二冠を史上初めて達成後、乱入してロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン大合唱を阻止してのけたKENTAについて、思うところをつらつらと記しておきたい。
KENTA ruins Naito's crowning glory! #njwk14
WWEを退団して、新日本にやってきてから、彼は常にサプライズを巻き起こしてきた。大阪で柴田勝頼に伴われてG1参戦を表明した時もそうだし、G1最終戦でその柴田を裏切りBULLET CLUB入りした時も大きな驚きを与えた。そして、今回の東京ドームだ。ブシロード新体制になってから、ここまで後味の悪い結末を迎えたのは初めてで、ある意味二冠という「到達点」を一瞬でふっ飛ばしてみせた。乱入された当の内藤本人が、次のようにコメントするのもさもありなんという感じだ。
東京ドーム大会のエンディング、あの注目される舞台で行動を起こす、こうして話題になっている。レスラー目線で言うとさぁ、これは素晴らしいことだと思いますよ。やっぱ、言葉や行動で示すことこそ、お客様に自分の意志を伝える一番の方法だと思いますよ。
この日、KENTAは後藤洋央紀とNEVER無差別級ベルトを賭けて戦い、敗北を期している。その直後の「暴挙」ということもあって、解説のミラノコレクションATからも、ファンからも、内藤本人からも疑問を呈されている。だが、戦前のTwitterのリプ合戦やコメントで、後藤から「新日本プロレスでやっていく覚悟」について再三に渡って問われていた。それに対する明確な答えだといえるだろう。
序列とか格とか関係ない。ここにある全てをひっくり返してみせるというのは、ヒール集団には必要なものだが、最近のプロレスはアスリート指向が強くなり、なくなりかけていたものだった。逆にいえば「お前(ら)は認めない」という個人・ユニットの抗争はあっても、本当の「怒り」がリングで表現されていなかったような印象を受ける。
このようなことを考えさせられたのは、WWEで活躍し、今なお全日本・大日本などでトップレスラーとして君臨するTAJIRIのツイートを拝見したから。
KENTA選手、凄いなあ。プロレスが本当にかつての栄華を取り戻すための、どこもなかなか超えられなかった堅い堅い壁をひとつ壊したね。 pic.twitter.com/CQYVhOTDtS
— TAJIRI (@TajiriBuzzsaw) 2020年1月6日
彼のいう「かつての栄華」を1980~90年代だと仮定すると、どこのリングにも「熱量」があった。それがファンにも伝わりムーブメントになったわけだが、例えば全日本には強い外人レスラーの存在があり、新日本ならばUWFとの抗争があった。つまり「外敵」の存在が足りなかったのが、ここ数年のプロレス界だったのではないだろうか。
ここ数年で、それにチャレンジした例としては、KENTAの古巣のNOAHが繰り広げた鈴木みのる率いる鈴木軍との抗争が挙げられる。だが、保守本流ともいえるNOAHでは乱入や凶器攻撃といったスパイスは最後まで受け入れられなかったし、経営基盤も脆弱だった。WWEではTVショーでバッド・エンドを迎えることは珍しくないが、ある意味では興行団体の体力も、選手の力量も試させられる、危険すぎるギャンブルとも言える。だからこそTAJIRIは「堅い堅い壁」と表現したのだろう。
「元NOAHのエース」「アメリカで失敗した男」という評価は、KENTAにはどうしてもついて回る。彼はバックステージコメントの面白さが徐々に注目されてきていたが、2019年11月3日のNEVERタイトルマッチで石井智宏を下した後に、本音とも韜晦とも取れる言葉を残している。
いや、あの普段から割となんだろう。アメリカ行って、何も残せなかったヤツって言う言われ方する時は、やっぱりあるんだよね、どうしても。でもそれは事実だから、別にそこに対して何も反論とかするつもりないし、それは事実だし。でもいま俺は新日本で“新しいチャレンジ”前向いてやってるから。そこを否定されても、どうしようもないもんね、変えられないし、別にそれはそれだし。でもそのへんで文句言ってるヤツって結局、何か自分で挑戦したこと、本気で挑戦したことないヤツでしょ、たぶん。そうだと思う。誰か挑戦する気持ちがあるんだったら、そんなこと人に言わないもんね。
彼のこの意識は、Twitterでの「アンチいじり」をする時などでも垣間見ることができる。リング上でヘイトをため、それを「安心して」発散できる存在に。彼自身もクソリプを望むような発言をしている。
もっと遠慮なく文句言ってきていいんだぞ。トレンドに入れてくれ。素人評論家や新日本ファン代表気取りの皆さんも遠慮なくどうぞ。
— KENTA (@KENTAG2S) 2020年1月5日
これには「SNSだから晒すかもしれないけれどな」という言外の言葉が含まれているあたり、「誰にも容赦しない」というレスラーのヤバさを体現しているようにも感じるし、もっと大きな視野だとヘイトスピーチが問題視されて自分の気持ちを表現できなくなりつつある社会へのアンチテーゼだと捉えることだってできる。
そういう意味において、今回の東京ドームの乱入劇には確かに痺れた。振り返れば、いつだってKENTAは「蹴撃」を続けてきた。今後、これ以上のインパクトのある「蹴撃」を見せてくれるのか、期待と不安を行ったり来たりしながら見守りたいと思う。