Parsleyのリハビリ部屋

ちょっと人生に疲れたParsleyが、リハビリのつもりでつらつら言葉を重ねていくブログです。

プロレスラーにとっての「衰え」についての一考察

 もう廃刊になってしまった雑誌だけど、一時プロレスラーのインタビュー記事を担当していたことがあった。

 まったく経験のない中で蛮勇もいいところだったな、と今振り返って慄然とするのだが、2006年頃に武藤敬司に当時九段下にあった全日本プロレスのオフィスで話を聞いた時、「客は衰えた武藤を見に来ている」という発言の真意を訪ねたところ、相好を崩して「お前、よっぽど俺のことが好きなんだな!」と言われたことを昨日のことのように覚えている。思えば、あの瞬間にインタビューアーというお仕事をやっていけるという手応えを自分は得たのだろう。

 

 当時の段階で彼の膝はボロボロで、90年代の華麗な試合運びは難しくなっていた。だが、その後2008年には古巣新日本プロレスIWGPヘビーを巻き、東京スポーツ認定プロレス大賞に輝いている。以降、度重なる手術や長期欠場を経て、人工関節を入れたことでムーンサルトプレスを封印した。だが、今なお唯一無二のレスラーだということに異論のあるファンはいないのではないか。

 

 プロレスラーにとって、怪我やコンディションとの戦いは対戦相手以上に厄介なものだが、2018年の棚橋弘至ケニー・オメガイデオロギー闘争は、久々に「活字のプロレス」を感じさせてワクワクさせられた(逆にいうと、2019年の「二冠問題」に、そこまでの高揚感はない)。なによりも、若手の頃に「自分はストロングスタイルと遠いところにいる」と公言していた棚橋が、「伝統」=「新日本プロレス」を守るとアスリートプロレスの旗手たるケニーへ対するという図式に数奇さを覚えたのは私だけだろうか。

 

www.youtube.com



 ただ、武藤からIWGPを奪ったのが棚橋だということを考えれば、「品」というワードや「技を競い合うだけがプロレスじゃない」といった主張は武藤の系譜を受け継いで自分が発展させていく、といった決意を感じられたものだった。結果的に東京ドームで棚橋はケニーに勝つことになるのだが、コンディションで敵わない相手にどう勝つのか、彼なりの勝負論が垣間見える一戦だったのだと思う。それだけに、そのテンションが保てずにジェイ・ホワイト相手に初防衛失敗してしまうあたり、彼の膝や肘の深刻さが浮き彫りになったし、その後にサブミッション最先端といえるザック・セイバーJrを相手にしなければならないというマッチメイクに彼が選んだ道がいかに過酷か思い知ることになるのだが……。

 

 春のG1こと『NEW JAPAN CUP2019』で、棚橋は一時的にフィニッシュホールドのハイフライフローを封印し、準決勝まで進んだ。その試合運びを解説陣は「深い」と表現していたが、自身のコンディションと向き合ってリング上でできる最適な選択を取ったというのがより正確に思える。いま、棚橋弘至武藤敬司が40代で直面した「客への見せ方」を試行錯誤しつつ会得に躍起になっているように見えるのだ。

 

 もうひとり、新日本プロレスで「衰え」のまなざしから戦っているように見えるのが、『G1CLIMAX2019』から参戦したKENTAだ。NOAH時代には全日本プロレスの系譜を踏襲したレスリングをする選手が多い中、キックボクシングを軸としたハードな蹴りを主体にファイトする姿はある意味異質で、だからこそ丸藤正道らと名勝負が生まれたのだと個人的には考えているが、10年以上経て、WWEから帰ってきた彼は、そこまでの輝きをまだ放っていないように、どうしても見えてしまう。

 イタミ・ヒデオ時代に不運だったのは、オリジナルのgo 2 sleep(GTS)がCMパンクが使用していたため当初は使えなかったこと。そうこうしているうちに肩を負傷して長期欠場に追い込まれてしまい、GTSの説得力が減じてしまったことだろう。彼のWWE挑戦は、不完全燃焼に終わってしまった。

 

www.youtube.com

 

 個人的にソウルメイトこと柴田勝頼に伴われて新日本のマットに登場したKENTAは、NOAH時代と比較すると「よそゆき」の印象を覚えた。『G1』では飯伏幸太や棚橋に勝利したけれど、蹴撃度は控えめで、ファンからの支持度もなかなか上がらない中、最終戦でバレットクラブ入りして柴田と決別。なんとなく点が線になっていないというか、どうなることやら、という目が先行していたように思う。

 そんな彼がNEVER無差別級ベルトを石井智宏から奪った、というか新日本が巻かせたのは純粋な驚きだったが、その後の彼は跳ねた。バックステージのコメントやTwitterでのおちょくりは、NOAH時代のふてぶてしいKENTAそのもので、試合もヒリヒリした緊張感を取り戻してきている。肩には痛々しい手術痕が見えるが、ほんとうの意味でのKENTAのプロレスが見れるのもあとちょっとだという期待は持てるだけの内容になってきた。

 

www.youtube.com

 

 結局、自分が何が言いたかったというと、プロレスラーにとって「加齢」や「衰え」というものは客の期待を上げる妨げになるものではないはずだということ。そういう意味で年始の東京ドーム2連戦での棚橋とKENTAの一挙手一投足から目を離さないようにしたい。