『シン・ゴジラ』の「タバ作戦」で多摩川浅間神社を指揮所にしたのは妥当なのか考えてみた
あけましておめでとうございます。2020年もよろしくお願いいたします。
初詣は元旦二日に川向うの多摩川浅間神社まで行ってきた。すると、早くも映画『シン・ゴジラ』とコラボした絵馬もいくつか見かけることができた。
ここで、ちょっと疑問に思ったのが、自衛隊が「神社境内に指揮所を置く」ことの法的根拠だ。
多摩川浅間神社は、出陣した源頼朝の身を案じた妻北条政子が、後を追って多摩川までやってきたが、足を痛めて治療した時に、富士山が鮮やかに見え、自身の守り本尊である富士吉田の浅間神社の方角に向かって手を合わせて夫の武運長久を祈って、身につけていた正観世音像を立てたのがいわれとされている。
『シン・ゴジラ』では、鎌倉付近に上陸したゴジラを食い止める「タバ作戦」が丸子橋緑地周辺で実行される。主力は陸上自衛隊のヘリ、戦車、特科で、支援として航空自衛隊のF2も登場する。作中では、川崎市側と大田区側の両方に兵力を展開。ヘリ、戦車、自走砲、ミサイル弾、F2の爆撃という順に攻撃していく。
上の戦車が展開されているのは、丸子橋から東海道新幹線・横須賀線の陸橋の間。戦車が機動行動を行うには狭すぎるのでは、という印象を受ける。作中では多摩堤通りにも並べて射撃していたが、命中率の高さはともかく周辺への被害も相当だったのでは、と思われる（ゴジラの通ったところの被害に比べればアレかもだけど）。むしろ、わかば公園周辺や川崎側の球場あたりに機動性の高い部隊を展開させるべきだったのでは、という疑問も湧いてくる。が、絵的には迫力あったのでオーケーということにしよう。
さて、肝心の指揮所だ。ここの北側には多摩川台公園があり、そちらも作戦区域を俯瞰するのに適当のように思えるが、機材の搬入の都合や隊員の収容の容易さなどでこちらが選ばれたのだろう。前述した北条政子のエピソードもあり、縁起担ぎという意味合いもあったのかもしれない。
作中の作戦行動の法的根拠は、自衛隊法第七十七条の二が適用されているものと考えられる。
第七十七条の二 防衛大臣は、事態が緊迫し、第七十六条第一項（第一号に係る部分に限る。以下この条において同じ。）の規定による防衛出動命令が発せられることが予測される場合において、同項の規定により出動を命ぜられた自衛隊の部隊を展開させることが見込まれ、かつ、防備をあらかじめ強化しておく必要があると認める地域（以下「展開予定地域」という。）があるときは、内閣総理大臣の承認を得た上、その範囲を定めて、自衛隊の部隊等に当該展開予定地域内において陣地その他の防御のための施設（以下「防御施設」という。）を構築する措置を命ずることができる。
また、神社境内を使用することについては、このあたりが法的根拠になるだろう。
（建築基準法の特例）
第百十五条の七 第七十六条第一項の規定により出動を命ぜられ、又は第七十七条の二の規定による措置を命ぜられた自衛隊の部隊等が行う破損した建築物の応急の修繕又は応急仮設建築物の建築については、建築基準法（昭和二十五年法律第二百一号）第八十五条第一項本文、第三項本文及び第四項の規定を準用する。この場合において、同条第三項本文中「その建築工事を完了した後三月を超えて」とあるのは「自衛隊法（昭和二十九年法律第百六十五号）第七十六条第二項若しくは武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律（平成十五年法律第七十九号）第九条第十一項後段の規定による撤収を命ぜられ、又は自衛隊法第七十七条の二の規定による命令が解除された後においても」と、「その超えることとなる日前に、特定行政庁の許可」とあるのは「当該撤収の命令又は命令の解除があつた後、速やかに、特定行政庁に申請し、その許可」と読み替えるものとする。
（土地収用法の適用除外）
第百十五条の九 土地収用法（昭和二十六年法律第二百十九号）第二十八条の三第一項（同法第百三十八条第一項において準用する場合を含む。）の規定は、第七十六条第一項（第一号に係る部分に限る。）の規定により出動を命ぜられ、又は第七十七条の二の規定による措置を命ぜられた自衛隊の部隊等が応急措置として行う防御施設の構築その他の行為については、適用しない。
（土地区画整理法の適用除外）
第百十五条の十二 土地区画整理法（昭和二十九年法律第百十九号）第七十六条第一項の規定は、第七十六条第一項（第一号に係る部分に限る。）の規定により出動を命ぜられ、又は第七十七条の二の規定による措置を命ぜられた自衛隊の部隊等が応急措置として行う防御施設の構築その他の行為については、適用しない。
ちなみに、自衛隊法では作戦展開について緊急性を要する場合に国会および都道府県には後から許可を得ることが可能となっているので、そのあたりの描写が省かれたものと考えられる。
「やったか？」というフラグの後、丸子橋のアーチをキレイにふっ飛ばし、ゴジラはほぼノーダメージで東京都側へと歩み、「タバ作戦」は失敗する。作中では指揮所が潰されるシーンもあったけれど、コラボの絵馬・御守り・てぬぐいの発売リリースによると、「災害から守られる」「災いを跳ね除ける」ご利益を得たとのことだから、本堂は無事という解釈なのだろう。ちなみに、作戦で被害にあったとすれば、その後国および都道府県が補償することが明記されているので、復旧は順次行われていたと解釈していいのでは、と思う。
うだうだと「タバ作戦」について考えてみたわけだけど。自分にとっては桜おみくじを引いて大吉だったことの方がよほど大事かつありがたいことなのだった。2019年は控えめに言って散々だったので、2020年こそはよい年になりますように！
